4Kモニターで最新の3Dゲームをプレイしても、ポリゴンの輪郭がギザギザ(ジャギー)に見えることがあります。一方、イラストやCG画像は4Kより低い解像度のフルHDでも滑らかに感じます。これがなぜなのか気になり、そもそも「エイリアシング」と「アンチエイリアシング」とは何かを改めて調べてみました。
この記事では、まず直感的に理解できるレベルから説明し、次に数式や信号処理の観点からより深く掘り下げていきます。
Contents
まずは直感的に
ゲーム画面でキャラクターや建物の輪郭がギザギザに見えることがあります。これは「エイリアシング」と呼ばれる現象で、コンピュータが“滑らかな世界”を小さなピクセルで近似する際に生じる限界です。
たとえば、ドットで構成されたプリンターで斜め線を印刷すると、ギザギザが見えます。モニターのピクセルも同じで、有限の点で連続的な形を表現するため、どんなに解像度を上げても斜めや曲線が完全に滑らかにはなりません。
一方、イラストは最初から「見た目が自然に見えるように」描かれます。線の太さや色の変化を調整して、視覚的に滑らかに感じるように設計されています。数学的にはどちらもサンプリングを行っていますが、その目的と制御の仕方が異なるのです。
エイリアシングとは
エイリアシング(aliasing)は、**連続信号を離散的にサンプリングした際に、再現できない高周波成分が折り返して混入する現象**です。\\
連続信号 \(f(x)\) をサンプリング間隔 \(T\) で離散化したとき、サンプリング信号は次式で表されます:
$$
f_s(x) = \sum_{n=-\infty}^{\infty} f(nT)\, \delta(x – nT)
$$
フーリエ変換すると、サンプリング後の周波数領域表現は:
$$
F_s(\omega) = \frac{1}{T} \sum_{k=-\infty}^{\infty} F(\omega – k\omega_s)
$$
ここで \(\omega_s = 2\pi/T\) はサンプリング周波数です。元のスペクトル \(F(\omega)\) が \(\omega_s/2\) (ナイキスト周波数)を超えると、隣接スペクトルと重なり aliasing が生じます。
サンプリングとは何か
コンピュータグラフィックスにおけるサンプリングとは、**連続的な光の輝度分布を有限のピクセルで観測し、代表値を記録すること**です。
理想的には、ピクセル領域 \(A_{ij}\) 内での平均輝度:
$$
C_{ij} = \frac{1}{|A_{ij}|} \int_{A_{ij}} L(x, y)\,dxdy
$$
を求めるべきですが、実際にはピクセル中心で評価する近似が一般的です:
$$
C_{ij} \approx L(x_{ij}, y_{ij})
$$
この近似が aliasing の根本的原因です。
ゲームが理論的にエイリアシングを消せない理由
非バンドリミット信号のサンプリング
ゲームシーン(ポリゴン + 照明 + テクスチャ)は**非バンドリミット信号**です。輝度分布 \(L(x,y)\) は不連続点を含み、スペクトル \(F(\omega)\) に上限がありません:
- ポリゴン境界:ジャンプ不連続(ディリクレ不連続)
- スペキュラ反射:デルタ的ピーク
- シャドウやハイライト:急峻な勾配
したがって、どんなに高解像度でも aliasing を完全には除去できません。
$$
\text{非バンドリミット信号} \Rightarrow F(\omega) \text{に上限なし} \Rightarrow \text{aliasing は不可避}
$$
スーパーサンプリングの限界
スーパーサンプリング(SSAA)はピクセル内の複数点を平均化して aliasing を軽減しますが、有限点近似にすぎず、理想的な積分(無限サンプル)には到達できません。結果として aliasing は減衰するだけで消滅はしません。
時間的サンプリング(Temporal Aliasing)
時間方向にもサンプリング(フレームレート)が存在するため、動くシーンでは時間的 aliasing(ちらつき、残像)が発生します。これは静止画には現れないゲーム特有の問題です。
イラストでエイリアシングが目立たない理由
イラストも非バンドリミット信号ですが、aliasing が目立たない理由は大きく2つにまとめられます。
高品質なアンチエイリアシング処理が可能
イラスト制作はリアルタイム処理ではないため、時間的制約が緩く、高精度なアンチエイリアシングを適用できます。スーパーサンプリングや積分ベースのラスタライズが行えるほか、ブラシエンジンは筆圧や速度などの情報を利用してサンプル密度を動的に変化させます。これにより、ピクセルの階段状の境界が自然にぼかされます。
数式的には、ピクセル値 \(C_{ij}\) は背景と線色の加重平均として表せます:
$$
C_{ij} = (1 – \alpha)C_{bg} + \alpha C_{line}, \quad 0 \leq \alpha \leq 1
$$
実際には \(\alpha\) は距離・筆圧・速度などの関数 \(\alpha = f(d,p,v)\) であり、ブラシ境界の滑らかさを制御します。また、ガンマ補正やディザリングによって色の遷移が滑らかに見えるよう最適化されます。最近のペイントソフトでは、ベクター線をラスタライズする際に数値積分的アンチエイリアスを実施し、曲線の滑らかさを高精度に再現しています。
作者による知覚的・心理的な帯域制御
アーティストは無意識のうちに、エイリアシングが目立たないような構図・線幅・色勾配を選びます。これは数理的なバンド制限ではなく、「人の目に滑らかに見える」ことを基準とした心理的帯域制御です。たとえば、急激な明暗変化を避けたり、線の端をややソフトに仕上げることで、aliasing が発生しても知覚的には滑らかに見えます。
この2つの要素——時間的制約が緩く高品質な処理ができること、そして人間による知覚的補正——が重なることで、イラストでは aliasing が理論的には存在しても、視覚的にはほぼ消失したように見えるのです。
結論
- ゲームもイラストも非バンドリミット信号である。
- ゲームはリアルタイム描画の制約上、aliasing を理論的に避けられない。
- イラストは人間の知覚とツール設計により、aliasing が目立たない構造を作っている。
一言でまとめるなら
> 🎨 イラストは「知覚的に aliasing を制御した非バンドリミット信号」。
> 🎮 ゲームは「リアルタイムで aliasing を制御できない非バンドリミット信号」。
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